11.23.03:58
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03.10.17:33
作品集50「流刑人形」蟹人間コンテスト氏
そうして淡々として進むこの作品の最後――そこを目にした時には、今までの冷淡とも思えるその文体が、とても慈愛に満ち溢れたものだという事に気付くのである。東方SSコンペに投稿するはずだった、と後書きにて記述されているが、もしも仮に私がコンペでこの作品を見たなら、確実に高得点を入れていただろう。
ある覚書に記された、厄払いの風習に関する考察。
あらすじを記すのに、私は上記の言葉以外を使う事が出来ませんでした。この作品の特性上致し方ない事だとも思いますし、私の実力不足かも判りませんが、この作品を本当に楽しむ為には最低限のあらすじだけしか必要としていないように思います。そうして、そう述べた上で私はこの作品をお勧めします。
読者の想像力の豊かさが、恐らくはこの作品への評価を分つ要素だと思います。色々な想像や憶測をして行く中で生まれる霞が払われる事はないでしょうが、それでも私は面白く読み終える事が出来ました。これも綿密な考察を生みだした、氏の実力と云えるのでしょう。
03.09.16:52
作品集50「蝶々の日々」MS*** 氏
景色の表現もさることながら、登場人物の感情表現などが細かく、美しい文体が特徴的で、過去の映像を映し出す表現に感服する。結婚という転機は幼き時代への決別として、また今までの友人が今までとは少し違った友人となる岐路でもある。読み終えた後には、物哀しい読後感と、時を経ても変わらぬ彼女らの一面を垣間見る事によって、云い知れぬ寂寞を感じられるに違いない。
縁談が決まった――話があると霊夢に呼び出された魔理沙は、その言葉を聞いて、形も浮かばぬ理想の言葉を送れぬままに、自身の中に蟠った思いに心苦しくなる。何時までも変わりない事だと思っていた幼き頃の日々は、案外すぐに変わるという事実は、未だ彼女にとっては悲しき事象なのであった。
庭先を飛ぶ蝶々は、まるでそんな昔日の自分を表しているようで、いずれ移り行く季節は、今までとは一風変わったものになるに違いない。息苦しい静寂の中で、二人は何を思うのか。――
「今」を捉えた文体がとても印象的でした。特に庭先を映し出した情景描写が美しく、そこに秘められた切なげな響きに心を打たれます。幻想郷に住む少女たちの未来を映し出した作品は多々あれど、この短い中にこれほどまでの感情を詰め込んだ濃密な作品は、そうそうあるものではないと思います。
これから先、霊夢や魔理沙がどういう風に日々を過ごすのか、そんな場面を見てみたいと思えるような読後感が、とても心地よかったです。是非とも一読をお勧め致します。
03.08.00:50
作品集55「神なき道に影はゆれ。」人比良氏
氏ならではの独特な雰囲気が始終感じられる作品。文章が何を伝えようとしているのか、また物語を通して何を表しているのか、それらを判別するのは多少難儀ではあるが、雰囲気自体に味が出ているので然程の苦にはならない事だろう。
――が、私にはこの作品が表しているのは、「日常」であったはずの毎日が突然崩れた日なのではないのかと思う。または失った物に対する懐古か。
そうして結末は未来へと繋がれる。何処までも続く道路の白線は、途方もない道のりを、彼女の前に現しているのだから。だからこそ、その上を歩く神の姿は、何処か朧げで儚く消えてしまいそうな白昼夢のように見えたのかも知れない。
何処までも普通の会話、何処にでもあるような風景、他愛のない仕草、潮の、香り。
長く長く――それこそ永遠に続いているかのような錯覚に囚われそうになってしまうほど長く続く道路を、白線が走っている。その上を楽しげに歩く神と、その姿を後ろから見守る現人神の、細やかな一風景。
物哀しさが何処からか伝わって来る、そういう感想を抱きました。本当に不思議な雰囲気を醸し出すのが上手く、短いながらも十分に楽しめた気がします。言葉の配置――とでもいうのでしょうか、並べ方とでも表現する方が適切なのか、そういうのが作品によく合っていて、それがまた雰囲気作りに貢献している印象です。やはり氏の書く作品は奥が深い。
03.07.19:10
作品集57「阿礼乙女」反魂氏
読後の感想として一言述べるのなら、「打ちひしがれた」というのが最も適切であった。始終物語の中で語られる碁の知識など、そういうものに至っては少々齧った程度の私では当然理解できるはずもなく、曖昧な想像を広げるだけに留まるのだが、しかしそれでも尚、私は氏の作品を見た事によって「打ちひしがれた」のである。
文語表現は美しく、心情は深く、言の繋ぎは巧く、物語は素晴らしく。この作品を読み進める度に、私は数多の感情を知った。登場人物達が関わる姿が目の前にあるようで、一種映画を見ている心持ちにもなった。全く氏の作品には敬服せざるを得ない。何を取っても卓越している。この作品が、この点数で燻ぶっている理由は多々あれど、私には百点しか付けられない。それがとても歯痒く思われたのは、久方振りに経験した事であった。過去にもこうした思いを抱く事はあれ、それは極少ない事である。私はこの作品に出会えた事を、自らの僥倖だと信じて疑わない。そうして反魂氏に溢れんばかりの敬意を抱く。
ある日思い出されたように阿求はある碁譜を並べ始める。昔日の思い出を集約した、何よりも尊い対局の模様、それを並べている内に、彼女は当時を想起する。年相応の青臭さや乙女心は色褪せる事なく、自らの思いを綴じた手紙は古臭くなりつつも、残っている。それは希望であり、慕情でもあった。
――が、突然自室へとやって来た家人の言葉に、それらは全く別物へと姿を変える。恐ろしき物の象徴、悲壮にまみれた哀れな時日。そうして彼女は、自らの「特技」に秘められたる意味を、初めて知る。
読んだ直後にこうして感想を書きました。この感動をいち早く伝えたかった事もありますが、よくよく考えてみればこの感動が容易に褪せる事など有り得ない事です。
とにもかくにも素晴らしい作品。そう評価する以外に言葉がありません。初めてこの点数で停滞するべき作品ではないと思いましたが、各々の嗜好云々に口を出すのは何とも馬鹿げた有り様ですね。
ただ一点、阿求の口調に違和を覚えてしまいました。しかしそれを差し引いても素晴らしい。この感想と紹介を読んでくれた方には、もう真先に読みに行って欲しいくらいにお勧めします。
03.04.03:22
今週だけ。
近頃平均睡眠時間が四時間下回ってます。それで少しも執筆する事も出来ていないし、予定では既に完成しているはずだったSSの進行具合も六割程度。しかしそれも今週まで。日曜日には投稿出来たらいいなと考えています。レビューの方はなるべく今のペースを保って行きたいものです。
03.03.01:10
作品集54「厄い蟲 厄い土」三文字氏
畑を荒らす厄――つまり人間にとって害虫とするものを祓う為に、その儀式は行われる。大きな藁人形を人間達が運び、そこに集まる厄蟲達――そして彼らを誘う虫の女王と、彼らを弔う厄の神。人間と神と妖怪の不思議な関係性が垣間見えるその儀式の果てに、美しき舞踏会は始まる。
題材などから見てもかなり完成度の高い作品です。会話文が無い、という点にこの作品を疎む方もいるかも知れませんが、そういう試み成功した形が見られる事だろうと思います。反魂氏とはまた違った表現力の高さに敬服しました。是非、一読を。
03.02.05:38
作品集54「潮騒」反魂氏
この作品に秘められた悲劇は紛れもなく辛辣なものであった事だろう。淡々とした独白の中に、そういう場面は幾らでも想起される。そうしてそれを思えば、彼女の言葉がまるで自分のものであるかのように、驚くほど切なげに染み渡って来るのである。私は、ただただ氏の表現力に敬服するばかりであった。
冷たい雨が降る夜、皆が見守る中で咲夜は穴を掘る。滔々と流れ出る過去の思い出は止まる事を知らず、主への想いは膨れ上がる一方で、突き刺さる現実を目の当たりにしながら、それでも彼女は穴を掘り続ける。
果たして彼女は、大きなものを失ってから、何を望んだのだろうか。
PNの事やら何やら一騒動あったらしいのですが、私は余りそういうのを気にしない性質の上、既に問題個所は修正されていたようだったので純粋に作品と向き合えたように思えます。思った事は、やはり表現力が凄いな、という事。咲夜の独白だけで此処まで色々と伝えられた事が純粋に凄いと思えました。
しかし気になる所が一点。環境依存文字なのか、何箇所か文字がおかしくなっていた所があって、些か雰囲気を害された心持ちがします。また「暗い」を「昏い」と表記されていたりと、色々な意味で読み手に不親切な部分があったりした気がしたので、そういった所は「暗い」と表記すべきではないか、と思いました。
是非ともお勧めしたい作品です。
03.01.20:44
心鏡のコメントを見て。
コメント13番の方が書いて下さった指摘や感想がとても参考になりました。私からすれば作品を読んで感想まで付けて頂けたのなら感涙ものなのですが、それに親切な指摘があると、諸手を挙げて喜びたい心持ちになります。コメントを書いて下さった方、並びに匿名評価を入れて下さった方に感謝しております。
私がそのコメントを見て、一番印象に残ったのがある人物の一人称を書く上で、「目」や「脳以外にも描写するべき場所があるのではないか、という所でした。
それを念頭に置きながら改めて自分の作品を見直した時に、驚くほどその反省点が見付かったからです。確かにさとりの独り善がり、自己完結、そのように見えます。私が描写したのはほとんどが視覚と思考だった上、「動きが少ない」という指摘通り、さとりは全て現在の時間から見た事を表現しているに過ぎませんでした。物語として読者を楽しませる凹凸などの欠如、そしてさとりの心情を表現する上で最も重視するべきはずだった雰囲気などが、いまいち満足出来るものではないという事にも気が付きました。
それらを踏まえた上で、この作品に必要なのは生物であるさとりの五感の表現や、相手の心情に対する推測(特にこいしの心は読めないので、その辺りに深みを出すべきでした)など多々挙げられます。凡そ実験作という段階で出すべきでなく、推敲して添削するなりするべきであったと反省しています。けれども、こうしてとても参考になるコメントを頂けた事は、あの段階で投稿した僥倖であるとも思いました。
そして文章としてはこのくらいの方が安心できる、という部分に対してですが、どうにも私には難儀なもののように思えます。実際「心鏡」を執筆している間、幾度となく筆が滞る事がありました。色々な意味でらしくないという思いがあった事もありますし、この表現で本当に表現したい雰囲気を出せるのだろうかと不安だったからです。貰ったコメントを見ると、それも杞憂だったようなのですが、私個人としての出来の満足度は凡そ八分にも達していなかったのです。
氷の芸術、と今までの私の文体を表現してくれたのですが、どうやら私にはどちらかと云えばそちらの方が性に合っているようなのも、否定出来ない所です。そういう一種癖のようなものを、少しずつ好い方向へ、自らの納得出来る方向へと伸ばす事が出来れば幸いだと思っているので、これからも向上心を持ちつつ更なる作品向上に努めて行きたいと思いながら、執筆して行きたいものですね。
最後にもう一度、コメントや匿名評価を入れて下さった方々に感謝の気持ちを。
ありがとうございました。
02.28.23:49
心鏡
02.27.00:47
作品集70「虹色有頂天」深山咲氏
短編の完成度では個人的に満点。すっきり読めて、すっきり読み終えられる事だろう。
こいしと思わぬ出会いを果たした天子は、今宵も彼女に出会う。そうして年代物の古酒を持ち、手荷物もそこそこに静かな宴会会場へと向かった。参席するのはこいしと天子の二人のみ。こいしが訪れた時には最早定例となりつつある緋想の剣を振りかざし、彼女の気質を現そうと試みる天子は、自らの境遇とこいしの境遇を思い、憂う。――物語の果て、空に浮かんだのは、小さな小さな、けれども確かにそこに在る光。
周囲からは捻くれているように見られても、実は真直ぐな天子、そうして普段は自由気儘に地上を彷徨しているようでも、本心は覚りである自らの存在に思い悩んでいるこいし。そんな二人の温かな一場面が垣間見れる、切なくも美しい物語。ただ一点指摘するところがあるとすれば、文章のバリエーションを増やして欲しかったというところ。実に個人的なのですが、括弧内の台詞等を描写の中で感じさせてくれたなら、もっと好くなったのではないかと思います。あくまで個人的な見方ではありますが。