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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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11.22.10:01

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  • 11/22/10:01

09.03.22:38

夏去りて、秋近し

東方SS二作目。
近付く秋を見る霊夢と魔理沙。
過ぎ行く夏は、少しだけ哀愁を漂わせていて。


「夏も終わりだな」



夏虫達がそれぞれの泣き声を宵の闇の中に響かせている中、魔理沙は呟いた。昼間の猛暑が嘘だったかのように、博麗神社の母屋の縁側には涼やかな風が吹いて いる。納涼を感じさせる風鈴が、静かに音を鳴らし、水面に広がる波紋のように浸透して行った。隣で茶を啜っていた霊夢は、丁度湯呑の中が空になった事も手 伝って、魔理沙の呟きに対して怪訝な眼差しを向ける。幾ら葉月が過ぎたからと云って、夏を終わりだと定義するのは些か気が早い。昼間は真夏のように暑く、 秋を思わせる風物詩もまだ窺えない。夏が終わったと云うに相応しい時期は、少なくとも後半月は待たなければならないだろう。



「まだまだ暑い日は続くわよ」



中身の無くなった湯呑を傍らの盆の上に乗せて、霊夢は昼時の猛暑を恨むかのように云う。耐え難い暑さの中で神社の境内を掃除するのも、この季節では嫌にな る。だが、何かしらの仕事をしなければ誰かしらが来て嫌味を残して行くだろう。無論楽はしたい霊夢ではあったが、怠慢巫女と云う称号は不愉快なのである。 早く秋になれば良いのに、思わずそう漏らした霊夢に、魔理沙は苦笑した。確かに熱い陽射しは厳しいが、彼女はこの季節が嫌いではない。夏だからこそ見られ る物は多く、夏ならではの楽しみも沢山ある。彼女はそう云った物を申し分なく楽しめる性分なのだ。



「まあ、秋も良いが暑かった日が遠ざかって行くとそれなりに寂しいものじゃないか」

「毎日掃除しないといけない私からしたら、嬉しいの一言に尽きるわよ」



夏を擁護した魔理沙の言葉は、霊夢が夏と云う季節に対して思う感情を変えるには至らず、霊夢はやはり暑い暑いと呻吟した。今の時間帯なら、呻くほどの気温 は無いと云うのに、と魔理沙は嘆息を零した。空を見上げると無数の星々が散りばめられて、それぞれが強く儚い光を放っている。自分が作り出す魔法の星とは 違う、丸い光は一種違った趣を凝らしている。魔理沙はそう思い、隣りでまだ秋よ早く来いなどとぼやいている霊夢に、空でも見て落ち着けと云いたくなった が、そのような事をすれば瞬時に空など見ても涼しくはならないと云った答えが返って来そうに思えて、踏み止まった。

その代わりに氷精でも家に置いておけと提案してみたが、それも喧しいだろう、と云う理由によって棄却された。確かに、真っ当な勝負で負けたからと云って寝首を掻かれそうにでもなったら面倒である。魔理沙は同感だ、と云って黙った。



涼やかな風が吹き、風鈴を幾度か鳴らして行く内に、霊夢のぼやきも影を潜めるようになった。二人の間に会話は無かったが、別段それを気まずく思う様子もな く、時は少しずつ流れて行く。たまにこうして過ごすのも悪くない。魔理沙はどちらかと云うと盛大な宴会か何かを開いて騒ぐ方が性に合っていると思っていた が、その考えを改めた。が、手持無沙汰である事には変わりない。せめて寂しい口を何かで紛らわせたくなったが、生憎霊夢に差し出された麦茶は洋杯の中から すっかりと消えている。やむを得ず、魔理沙は霊夢に頼み込んだ。



「何だか晩酌でもしたい気分だぜ」

「あらそう。お賽銭入れて行ってくれるなら考えてあげるわよ」

「今から動くのは少々面倒だな」

「奇遇ね。私もそう思ったわ」



結局易々と躱されてしまった提案をもう一度話題に上らす気もなく、魔理沙は溜息と共に項垂れる。霊夢は先刻の駄々をこねる子供のような愚痴はもう発さず、 黙然と家の中の光が照らし、段々と濃くなる闇の中を見詰めていた。どうやら動こうとする気は微塵も無いようである。魔理沙はもう一度溜息を零した。二人の 間に再び沈黙が訪れるが、それは間もなく破られた。霊夢の長嘯が、過ぎた夏に想いを馳せるかのように響き渡ったのである。



――夏過ぎて 近付く秋は いと恋し

離るる炎暑 消え行く揚羽



静かな声音で唄われた短歌は唐突な物ではあったが、魔理沙は別段驚くような素振りは見せなかった。寧ろ、霊夢が唄った句を咀嚼して、自らもその歌を心中で 繰り返すと云う行為の方が自然であった。彼女は眼を瞑り、霊夢の歌を反芻する。すると、その内に元々静けさに満ちていた精神は更に静かになり、遠くで遠吠 えする犬の声ですら判然と聞き取れるような心持がしてくる。風鈴が、ちりんと一度、透き通った音色を響かせた。

二人はそれきり押し黙った。双方共に目は瞑っている。頬を撫でる風を心地よく享受し、その度に鳴る風鈴の音に耳を傾ける。夏の夜も大分涼しくなった。魔理沙は口元を緩めてそのような事を考えた。



「晩酌でもしましょうか」



霊夢がぽつりと呟く。

夜も更け出したばかりである。

魔理沙は黙って頷き、有り難いぜ、と云った。 







――end.

夏の終わりを眺める二人。

暑いのは厳しかったけど、この季節も過ぎ去るんだな、と思うと妙に寂しくなります。
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