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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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11.22.10:03

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  • 11/22/10:03

09.02.22:09

星月夜の下

東方SS 1作目。
輝夜と永琳、二人の宴会風景。


 夜空に散りばめられた星々の真中に、悠然と浮かぶ満月が光を大地へ降ろしている。死んだ光が煌めく中に、只一つ生きた光を降らすその月は、一層孤独に窺える。十五夜の満月は斯くも儚く美しく見えただろうか。かつて、月の姫君であった輝夜はその月を眺めながらそんな事を考えた。今宵の月見に同伴している永琳は、隣りで酒が入った盃を口に付けている。それを見て、輝夜も傍らに置いていた盃を取ると、一口喉に熱い液体を流し込んだ。



「ねえ、永琳」



酒で喉を潤して、視線は月に向けたまま、輝夜は永琳の名を呼んだ。言葉は無しに、永琳は輝夜を見遣って話の先を促したが、輝夜自身何故永琳を呼んだのか判らなかった為、「んー」と間延びした声を漏らしながら、何を話そうか考え始めた。宵の静寂を侵す者は只一人としてこの場には居ない。竹林の只中に建てられた永遠亭の中は、驚くほどに密やかである。こうして、無理に話題を探そうとしなくとも、この雰囲気だけで二人きりの宴会は楽しくなるような心持がした。だから、輝夜は暫く何も話さずに、只月を眺めたまま緩やかな曲線を桜色の唇に描いている。永琳も、急かすような真似はせずに、真円を象った月を眺め、この宴会の雰囲気を楽しんでいた。二人はそうして暫くの間、何事も会話を交わさずに佇んでいた。



「ねえ、永琳」



ふと、輝夜が先刻と同じ言葉を卒然と繰り返した。相変わらず目は月を向いている。永琳は、今度こそ話題が浮かんだのだろうと解釈して、今度は「どうしたの」と答えを返した。輝夜は、再び酒を一口喉に通して、やはり月に目を向けたまま口を開く。静寂を打ち破らぬ程度の声量で紡がれる言葉は、何処か儚く、何処か妖艶である。永琳はかつての月の姫君の話を拝聴すべく、耳を傾けた。颯と風が吹き、庭先に置かれた盆栽の葉がさわさわと音を鳴らしている。



「永遠ほど安心出来る物は無いと云うのに、永遠と云う物はどうしようもなく恐ろしいと思わない?」



輝夜の問いに、永琳は意外の感に打たれた。少し不思議に思い、隣りを見遣ると、穏やかな表情で月を見上げる姿がある。彼女の問いは、現在の彼女の様子とはまるで正反対のように思われた。けれども、問われたからには答えねばならない。永琳は顎に手を当てて、暫しの黙考の後に答えを述べた。姫君は、変わらず月を見上げ、何処か郷愁を表すかのような笑みを浮かべている。その儚げな表情を見ると、永琳は不思議な感覚に囚われてしまうように思った。



「決して終わらない永遠が、もしも唐突に終わりを告げたなら、或いは怖いかも知れないわ」



その答えを聞いて、輝夜は口元に手を当てて、上品な佇まいでくすくすと笑った。決して永琳を馬鹿にする笑いではないが、今の答えの中の何処に笑う要素があったのかと考えると、永琳は不思議になる。元々輝夜の心情を奥底まで見通す事は難儀だと思ってはいたが、こうも思考が読み取れないと逆に新鮮に思われた。



「姫様は、今の答えとは違うお考えですか」



故意に諧謔を含ませた物言いで、永琳は茶化したように問い掛ける。輝夜は、また一つくすりと笑みを零して、永琳の方を向いた。月の光に照らし出される輝夜の表情は、この静けさを体現しているかのようであった。夏の終わりに差し掛かり、心持涼しくなった夜風が二人の髪を靡かせる。輝夜は自分の髪の毛が目に掛からないように片手で押さえると、そっと口を開く。但し、それは永琳の問いに答える物はではなかった。



「今のは、永琳の考えなのかしら」



その問い返しに、永琳は心中で成程と頷いた。自分が云ったのは客観論であり、決して主観的ではない。只多くの生物が感じるような事を云っただけである。主観的には全く別の事を考えていた。それこそ、永遠の終わり目に恐怖など感じ得ないと考えていた。生物を脅かせる最大の恐怖は、何時だって死に他ならない。永琳と輝夜はそれを恐れない。死がどのような物なのか、それすらも今では忘却の彼方である。二人は等しく、生物と云う域を超越していた。



「――私の主観で語るなら、全く違うわね」

「ふふ、やっぱり。永遠の終わり目だなんて、妹紅だったら飛んで喜びそうだもの」

「ねえ、永琳。私は時々思うのよ。永遠を約束された私達が世界の終焉まで生き続けて、そしてこの惑星ですら消滅を迎えた時に、どうなるのか、って。死ねない私達の存在自体が無くなればどうなるんでしょうね。月が残っていたらそこに生き返るのかしら。もしかしたらもっと遠く――それこそ誰も見た事がなくて、誰もその存在を知らない所で生き返るのかしら。そう考えるとどうしようもなく恐ろしいわ。ねえ、永琳。そうは思わない?」



輝夜は最後に問い掛けて、再び月を眺め遣る。永琳は先刻、それに郷愁の念を感じたが、今では全く違った感じを受けていた。麗しき月の姫君の目に映るのは、生きた光を煌々と降らしている満月ではなく、死んだ光を瞬かせる星々に向いていた。確かめようのない星へ向ける感情は、輝夜が先に云った恐怖なのだろう。永琳は輝夜が云った意味を、その視線によって理解する。彼女が本当に恐れている事が何か、それ以上の説明が無くとも容易く理解に足る語りであった。



「私達にとって一番恐ろしい事は、孤独なのかも知れないわね」

「あら、何の事? 私はそんな事一言も云ってないけど」



永琳の言葉に、輝夜はわざとらしく微笑んで見せた。実際には永琳の言葉は的を射ていたのだろう。だが、それを素直に認めないのは、姫としての矜持が関わっているのか、それとも本当にそんな事は思っていないのか、どちらなのかは明確な判別は付かないが、それでも永琳自身はそう考えていた。もしも自分だけが見知らぬ土地に生き返り。輝夜も妹紅も――永遠を約束された者が散り散りになってしまったら、それ以上の恐怖はないだろう。



「そう云う事にしておきましょうか」



永琳は、月を見上げて酒を仰ぐ。



「少し気に入らないけどね」



輝夜は、星を見上げて酒を仰ぐ。

颯と吹く風は酔いに火照った身体には心地良い。葉の囁き声も、季節の虫の鳴き声も、宴会に趣を凝らしている。

二人は同じ笑みを浮かべながら、深まる宵の中の宴会を楽しんだ。







――end.

永遠亭の密やかな宴会。

見た目は穏やかに、背景は暗く、を目指してみた。



これくらいのSSだったら頻繁に更新出来そうだ。
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