11.22.21:50
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03.07.19:10
作品集57「阿礼乙女」反魂氏
読後の感想として一言述べるのなら、「打ちひしがれた」というのが最も適切であった。始終物語の中で語られる碁の知識など、そういうものに至っては少々齧った程度の私では当然理解できるはずもなく、曖昧な想像を広げるだけに留まるのだが、しかしそれでも尚、私は氏の作品を見た事によって「打ちひしがれた」のである。
文語表現は美しく、心情は深く、言の繋ぎは巧く、物語は素晴らしく。この作品を読み進める度に、私は数多の感情を知った。登場人物達が関わる姿が目の前にあるようで、一種映画を見ている心持ちにもなった。全く氏の作品には敬服せざるを得ない。何を取っても卓越している。この作品が、この点数で燻ぶっている理由は多々あれど、私には百点しか付けられない。それがとても歯痒く思われたのは、久方振りに経験した事であった。過去にもこうした思いを抱く事はあれ、それは極少ない事である。私はこの作品に出会えた事を、自らの僥倖だと信じて疑わない。そうして反魂氏に溢れんばかりの敬意を抱く。
ある日思い出されたように阿求はある碁譜を並べ始める。昔日の思い出を集約した、何よりも尊い対局の模様、それを並べている内に、彼女は当時を想起する。年相応の青臭さや乙女心は色褪せる事なく、自らの思いを綴じた手紙は古臭くなりつつも、残っている。それは希望であり、慕情でもあった。
――が、突然自室へとやって来た家人の言葉に、それらは全く別物へと姿を変える。恐ろしき物の象徴、悲壮にまみれた哀れな時日。そうして彼女は、自らの「特技」に秘められたる意味を、初めて知る。
読んだ直後にこうして感想を書きました。この感動をいち早く伝えたかった事もありますが、よくよく考えてみればこの感動が容易に褪せる事など有り得ない事です。
とにもかくにも素晴らしい作品。そう評価する以外に言葉がありません。初めてこの点数で停滞するべき作品ではないと思いましたが、各々の嗜好云々に口を出すのは何とも馬鹿げた有り様ですね。
ただ一点、阿求の口調に違和を覚えてしまいました。しかしそれを差し引いても素晴らしい。この感想と紹介を読んでくれた方には、もう真先に読みに行って欲しいくらいにお勧めします。
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