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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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11.22.15:56

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  • 11/22/15:56

10.22.22:48

幻想の詩―蓬莱の連―#9

東方SS三十九作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


容赦は復讐に勝る。故に容赦するのは難しい。
 



 二週間の月日が流れ、妹紅の生活は少しだけ変わった。

 その変化というのも、ただ週に一二度程度だった輝夜との殺し合いが、毎日になっただけの事である。

 それの始まりは実に些細であった。

 ある日、何時もと同じように戦いの場へ赴き、そして敗北を喫した妹紅を見下しながら、輝夜は嘲笑を交えて、また明日も来るわと云った。そう云われれば、元より妹紅には明日また行く以外に選択肢がなかった。もしも行かなければ、それは即ち、父の仇打ちを諦めたも同然に感じられたのである。それに輝夜の人を小馬鹿にした笑みが加われば、妹紅は使命感と怒りによって、また行かなければならなくなった。


 そして、その次の日でも妹紅は負けた。

 輝夜はまた同じ事を云う。明日も来ると、不快な笑みを浮かべ、さも失望したと云いたげな表情で、卑下するように。

 それは次の日も、その次の日も続いた。そうして何時しか輝夜との殺し合いは毎日の習慣と化した。


 妹紅は知るべきであった。

 それが何の為に行われていたのかを。

 無限に時を有する者の無聊を、計り兼ねていたのだ。

 そうして、自分がどんな立場に立っていたのかを、忘れていたのである。


 


 


 



 


 




 妹紅の生活にはもう一つの変化があった。

 慧音の呼び掛けにより、人里に出向く事が多くなったのである。その大半は、寺子屋のちょっとした手伝いや、小さな子のお守など、取るに足らない用事であったが、他人との関係をもっと多く持った方が好い、そうすれば新しく見える物があるだろうと云う慧音の説得に折れて、最初は不承不承していたが、今では大分慣れていた。




 それがもたらした影響か、妹紅は前にも持っていた自分の生き方に対する疑問を、もっと判然とした意識を持って考えるようになった。果たして殺す事の出来ない輝夜を殺そうとする、矛盾した戦いを続けるのは、自分にとって、そこまで重大な意味を持っているのだろうか。そう考えはするが、それが殆ど実際的な方向に動く事はない。妹紅は自分の生き方に疑問を持ちはしても、それをきっぱりと変えられるだけの勇気を持っていなかった。




 そうして、今日が訪れた。

 今日は人里に行って寺子屋に来ている子供達と遊ぶ約束をしていた日である。どうしてもと子供がせがむものだから、妹紅は遂にその誘いを断れず、遊びの相手を引き受けた。自分のような人間とも云えぬ者を好いてくれているという事実に戸惑いはしたものの、子供達の笑顔を見るとそれも嬉しさになる事を、彼女は最近になって知った。慧音の家に赴く途中の今、寺子屋に行く事に楽しみさえ感じている。実際的な方向に進まずとも、妹紅は自分に大きな変化を感じていた。




「上白沢先生、どうすれば、どうすれば好いのですか。我らにはもう成す術がありません。このままでは、取り返しのつかない事になり得る可能性もあります。どうか、現状を打開する術を教えて下され。でないと人里は、終わりだ」




 ふと、慧音の家が見え出した頃に、悲痛な懇願の叫びが聞こえた。

 妹紅は何かあったのだろうかと、慧音の家に向かう足を速める。鬱蒼と茂る竹に隠れて見えなかった慧音の家の玄関先が鮮明に見えるようになるにつれて、そこに大きな人だかりがあるのに気付き、ますます不思議になった妹紅は、人混みを掻きわけて慧音の居る方へと進んだ。口々に助けを求める声が上がる中、慧音は一人の老人と話をしていた。




「今はどうなっているんです」

「判らないのです。ただ、今朝になって体調の不良を訴える者が増え、それが悪化して倒れる者が増え、今では里の半数が床に伏せっているのです。どんな病気なのか皆目見当も付きません。人里は混乱に満ちています。恐怖に怯える子供達も、得体の知れない病魔に蝕まれています。私とて、いつそうなるか……」




 老人の報告は妹紅を驚愕に陥れるには充分過ぎるものであった。

 慧音は難しい顔をしている。取り敢えず里に降りましょうと提案し、丁度動き出す所であった。




「慧音、一体何があったの?」




 妹紅が声を掛けると、慧音はやっと彼女に気付いたようで、驚いた気味を少しだけ見せると、またすぐに難しい顔になって私も判らないと云った。とにかくお前も来てくれと云われ、元よりそのつもりだった妹紅は考える暇も必要とせず、すぐに頷く。そうして里の人間の集団の先頭を、二人は歩き出した。




 背中より聞こえてくる人々の声は、そのどれもが不安に満ちている。泣き出している者もいる。或いは何故こんな事にと誰にも向けられない怒りを剥き出しにしている者もいる。

 それらを背に受けながら、二人は神妙な面持ちで里への道中を進んでいた。目の前には深い闇が広がっているように思われる。妹紅には、人里に近付くにつれてその闇の奥に、もっと強大で深い闇があるように思えた。


 


 


 




――続

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