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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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  • 11/22/10:56

05.12.00:00

幻想の詩―紅魔の連―#13

東方SS七十二作目。
紅魔館の面々で連載物。



 長らく放置していましたが、今日より再開。
 更新の程度は以前と比べれば大分落ちると思われますが、創想話作品の感想を書きつつ、こちらの方も進めて行きたいと思っております。



 対談、魔女が語る物語。

 

 


 

 


「貴方が自身を語り、私が貴方に与すると誓った以上、私はその証を見せなければならないわね。好いでしょう、このパチュリー=ノーレッジが生きた血生臭い道のりを語ってあげるわ。愚かな魔女の、愚かな物語」

 

 人を値踏みするかのような眼差しで、光る牙に宿った好奇。

 

「私は魔女であると同時に賢者でもある。無論先に云った事は間違っていないわ。私は賢者でありながら愚者でもある。それは変えようのない事実であると同時に、私の半生を映す鏡でもある。――母は魔女、そうして私もそんな母に色々な事を教わり、魔女として生きる事になった。魔女とはこの世の不条理を暴く存在。それは科学者と何も変わらないし、その為に錬金術を学ぶ事だって普通だった。それが幸いしてか、私はとても勤勉な性格になり、毎日机に重なる書物は増えて、大人にも引けを取らない知識を得るようになった。魔力は乏しかったけれど、それでも習得した魔法の数は誰よりも多かった。特に精霊の力を借りて発動する魔法には、大人でさえ恐れを成す威力があったわ」

 

 紅茶を片手に、自身の強さは揺るがぬと云わんばかりに組まれる白き足。

 

「そして成長して行くに連れて、魔力は強くなり、私は遂にその集落――と云っても、普通の人間が住む町に私達は自身の正体を隠しながら過ごして、研究や実験の為に町外れの小さな施設へ赴くくらいのものだったけど。後に聞いた話では、その施設が余りにも怪しいから、私達は「サバト」だなんて云われていたらしいわね。とにかく私は未だ幼いながらにして一番優秀な魔女となった。研究に大きな進展も与えていたし、独自の魔法を作ったりもする事が出来るようになったわ。その頃は何もかもが楽しかった。判らない事なんて無かったし、世界の全てを知っている心持ちがした。何より成長した私を褒めてくれる母の言葉が、私の実力向上の意識を決して削ぎはしなかったのよ」

 

 ぴくりと細き眉が動き、昔日を想起する吸血鬼の表情が荘厳なものになる。

 

「それから時は経ち、私達は究極の物質を作る方法を創造した。それに関する文献は腐るほどあったけれど、そのどれもこれもが曖昧なもので、確たる事実を記しているように見えるものは一つとして存在しなかった。だからこそ、その方法を見付けた時の私達の喜びようは凄いものだったわ。その物質が作られるまでは成功とはとても云えないのに、皆が宴会を始めたりして、結局それを作る段階に至ったのは方法を見付けてから随分時が進んでいたから。――賢者の石という言葉をご存じかしら?」

 

 頷く首は、無知を指摘された時の如く苛立っている。

 

「そうね、高名な吸血鬼である貴方が、その方面に関して疎い訳がないもの。それで、私達はとうとうその製作に取り掛かった。万物を生み出す力を持ち得ると伝承される伝説上の存在、賢者の石を。思えばそれが傲慢だったのかも知れないわね。万物を生み出す存在など神以外には在りはしない。その神が曖昧な存在ならば、空想にしか終わらない滑稽な物だったのに、私達は理論を追究した上で発見した喜びを、決して疑わなかった。だからこそ、私は償う事の出来ない重すぎる十字架を背負わなければならなくなったのよ」

 

 歪む口元、殺したのかという声。

 

「……間違ってはいないわね。十かそこらの数の同胞は皆死んだ。賢者の石の製作過程に起こった不慮の事故とも、――云いようなら幾らでもある。けれども私は、それが事故でなく私が引き起こした罪だと解釈しているわ。準備は着々と進みつつあった。賢者の石の元となる結晶に魔力を注ぐ段階――構築された術式、全て完璧であるはずだった。だけど、いよいよ最終段階という所で事件は起きたわ。途端に魔力が暴走し、当時私以外に使う事の出来なかった高度な魔力障壁を張れる私以外の同胞は。皆一滴残らず魔力を吸い尽くされて死んだ。並大抵の障壁では、その暴走に抗う事など出来はしなかったのよ。殆どの同胞が為す術もなく干乾びて行った」

 

 自嘲的な笑みが一つ、魔女は物語の続きを語る。

 

「それが引き鉄だったのね。不審な光を目にした町人に私達の居場所が漏れて、以前から怪しい訝れていた私達の施設には、何百という人間遣って来た。そして、――疑わしきは罰せよとはこの事ね。魔女だと疑われた者を問答無用で殺して回ったのよ。私の母もその内の一人だった。時折施設のある方へ出向いていたという理由だけで、火炙りに掛けられて殺された。無関係な人も多く死んで行く中で、私だけは生き残った。幼くして魔法を極めた身だったから、逃げる事は容易いわ。人間に私を見付ける事は出来ず、魔法で姿を消したまま私は同胞の命を糧に完成した賢者の石を片手に持って、町の片隅に佇んでいた。施設からは一目散に逃げたわ。目の前に広がる信じ難い光景を目にしている事も出来ず、同胞の死体を弔う事もしないまま、私はただただ保身の為に逃げたのよ」

 

 くつくつと鳴る喉は、悲劇の登場人物に足り得る悲哀の音である。

 

「――ふふ、皮肉なものね。膨大な魔力を喰らったのにも関わらず、生まれた石は伝承通りの物ではなかった。ただそれを使えば魔力が強大になるだけで、亡き者の命を蘇らす事も出来なければ、無から有を創り出す事も出来なかった。ただ必要のない魔力の塊で、私はそんな物の為に仲間を失ったのかと思うと自殺さえ考えた。野心を持った人ならば、垂涎の品物なのでしょうけど、生憎私には世界を牛耳ろうなんていう考えも無ければ、人間に復讐しようという気も起らなかった。ただ罪悪感ばかりが重なって、殆ど廃人と化していた。だからこそ、死のうなんて思ったのだけどね」

 

 何故死なぬ、その問いを受けて落ちる影。

 

「不思議でしょうね。死にたいとのたまう魔女が、こうして今も生きているのだから。――私は自殺しようと考えた時、一方でそれが救いとなるだろうかと考えたのよ。死ねば全てから救われる、そんな都合の好い話は独り善がりで卑怯な逃避でしかなかったというのに。ただで死ぬ訳には行かない、死ぬのなら正当な理由が無ければ、死んだ同胞に私は二度と顔向け出来ないと思った。だからこそ、私の力では及ばぬ敵に殺して貰おうと思ったのよ。それも自殺と何ら変わりは無いけれど、それが私に残された唯一の死ぬ方法だったから。色んな人と出会ったわ。腕利きの殺し屋、時には教会へ正体を隠しもせず出向いた事もある。それでも死ねなかった。予想以上に賢者の石は強力過ぎたのよ」

 

 懐より取り出したるは、淡く光る小さき石。

 

「これに敵う者など何処にも居なかった。どんな苦境に陥ろうとも、これを使い高等魔法を使えば全ては灰燼に帰した。もしかすれば、これが私に与えられた罰なのかも知れないわね。仲間達の怨嗟の叫びが、この石に集約されているのよ。楽に死なせるものか、生涯罪悪に苦しむが好い――とね。そうして今に至るのよ。吸血鬼が居るという噂を聞き付けて、人外の者ならば私を殺し得るかも知れないと考え、貴方に私を殺してくれと頼んだ。それが妙な事になっているのだから驚きだわ。今更人間達に復讐しようだなんて、全く時遅しと云う他ないけれど」

 

 吊り上がる口の端、妖艶なる笑みを浮かべるのは吸血鬼。

 

「私の物語はこれでお終い。これから先どうなるかは貴方次第ね。死ぬも生きるも、全ては貴方との誓いが終わった後でしょうから。これで信じてくれたかしら? 私は貴方との誓いを果たすまで、生き続けましょう。愚かなこの身を白日に晒し、積もる罪悪に圧せられながら、注がれる痛みを甘んじて受けましょう。賢者の域に達した愚かな魔女、パチュリー=ノーレッジが、神よりも、貴方よりも、何より自分に、それを誓うわ」

 

 好いだろう、高らかに響く、共闘の誓約。

 

 

 

 


――続

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