11.23.02:56
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02.08.18:23
作品集69「あなたへの月」人比良氏
創想話に投稿されている氏の作品を全て読んだ訳じゃないが、その一部を読み漁っていた私は、すぐに氏の文体や物語の雰囲気、主旨などが好きになった。それだから今回投稿された氏の新作が創想話の中で私の目に入った時などは嬉しくて堪らなかったものである。
物語は咲夜が自らに対して持つ疑問を考える事から始まる。「悪魔の犬」「吸血鬼の従者」――自分が称される二つ名など幾多ある中で、それでも彼女は自分が何なのか、という自問に対する本当の答えを見付けられない。やがて、そんな事をつらつらと思い浮かべながら紅魔館の廊下を一人歩いていた彼女は、ある人影を見つける。それは彼女にとって気になる存在。ヒトか否か、それを尋ねたいと思う人間であった。
今回の作品では氏の作品の中で頻繁に存在を主張してくる残酷性や、物語の背景に潜む暗さなどはあまり感じられない作品になっているように思われる。主な登場人物である咲夜と魔理沙、その何処か剣呑な距離と、咲夜が自分に対して持っている「自分とは何なのか」という疑問が、見事に作風の中に取り込まれていて、読んでいて読み手を不思議な気分にさせてくれるような作品となっている。
特筆すべきは淡々と物語を進ませる事により、この作品の良さを際立たせている、氏の筆力である。咲夜の一人称の場面は彼女の心情を判り易く表現する事により、彼女が持つ疑問を判り易くし、そこに魔理沙が介入してからの展開は何処か艶めかしい空気が漂ってきて、何故だかはらはらする。
私はとことんまで物語の中に含まれる残酷性などを、氏の作品から見れる事を期待していたが、今回の作品はそういう人で楽もしめると思う。不安定な咲夜が起こした奇妙な行動は、やがてどういう形となって現れるのだろうか。
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