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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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11.22.23:00

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  • 11/22/23:00

11.11.22:17

幻想郷大戦#5

東方SS四十九作目。
たまには激しく戦闘物。


開戦の幕が、静かに上がる。

 そこには場違いな岩石の山が出来ていた。本来そんな物があるはずのない博麗神社の境内に、自らの存在を誇示するようにごつごつとした岩石の一つ一つには、その年季を感じさせる苔が生えている。それらは互いを支えにしながら器用に積み重なっている。その頂きには、瓢箪を片手に持つ小さな鬼が退屈そうに空を仰いでいた。


 


 


 





 


 


 




「――生き恥を晒させに来たの」




 山の頂に佇む鬼に、人間が語りかける。人間は岩山の中より這い出てきて、埃の匂いを解消する為の咳払いを一つした。鬼は何も答えない。ただ、空いた時間の中で、もう一人の人間が岩山の中から這い出てきた。




「お前らしくもない。一思いに潰されるのかと思ったが」




 何時しか落ちていた自分の帽子を目深に被り直して、霧雨魔理沙はそう云った。鬼はやはり何も答えない。ただ瓢箪を口に宛がって、酒を嗜んでいる。二人の人間はどうする事も出来ないまま、その場に立ち尽くした。攻撃しようという考えはなく、逃げようなどという考えは尚更なく。二人は何の為に生かされたのか判らなかった。先刻までの戦い――それが戦いと云えるのかどうか、それは甚だ疑わしいが、それでもそれは殺し合いであったのだから。




「鬼さんこちら――なんて、云う人ももう居ないのかも知れないけれど」




 二人を視界に収める事もなく、蒼茫たる空を見上げながら、萃香は呟いた。そうしてそれを云い終えると漸く下に立ち尽くした二人をその目に入れた。憐憫はない。まして闘争心などその片鱗すら感じられない。ただ憐れんでいるかのような、呆れているかのような、曖昧な視線が二人を縛り付ける。

 敗者は勝者に何事も云えぬ。二人は萃香の言葉を待たなくてはならない。




「覚悟は」




 萃香はただそう云った。問い掛けているように見えれば、ただ呟いただけのように思われる。二人は言葉に窮した。その言葉に対してどう答えれば好いのかどうか判らない。そうして自分達が覚悟をしていたのかどうかも判らない。否、判然と映る事実の前に、真実は隠蔽されている。二人は確かな自覚を持つと共に、それを言葉にする事を憚った。




「霊夢、あんたは気付けたはず。妖怪の襲撃なんてそうそうある物じゃない。奇襲を掛けられた時点で〝異変〟が始まったと気付けなかったのかい? それともただ血迷っただけだとでも?」

「……」

「魔理沙もよ。あんたは私の力を見縊ったんじゃない。ただ何処かに期待を持っていただけ。何の冗談を、とでも思ったのかも知れないね。今ある平和が当たり前、本気の殺し合いなんて夢のまた夢だ、って」

「……」




 萃香の言葉はことごとく的を射ている。霊夢も魔理沙も否定の仕様がなかった。故に押し黙るより他にない。

 その場は静寂に包まれた。二人の脳裏には、今の事態など想像もしなかった安穏とした日々の映像が流れている。そうして自責の念を感じている。これが起こされるべくして起こされた異変ならば、解決するのは自分達以外にないのだ。そういう立場にある自分が、油断した末に瞬殺されては地獄に逝く事になったのなら後悔は永遠に自己を苛むだろう。




「――事情を聞かせてくれる?」




 霊夢は奥歯を強く噛み締めてから、萃香にそう尋ねた。先刻の体たらくが如何に重大な負債であるのか、確かに自覚したかのような声音である。無意味な強がりなど、この時点では塵ほどの意味も持たない。

 萃香は頷いた。霊夢の声音が、とうとう鬼の口を開かせた。




 ――萃香は自分が聞いた全てを二人に伝えた。この戦争の首謀者は八雲紫であり、妖怪の尊厳を取り戻すという名目の元に行動を起こし、その言葉に多くの妖怪が賛同し、自らを拡散させて幻想郷中を見て回り、幻想郷は滄桑之変の如く動いている事も告げた。その中にはいずれ人里にも被害が及ぶであろう推測なども混ざっていた。そうして霊夢と魔理沙の二人は事の重大さに気付く。自分達は実に皮肉めいた運命の佳境に身を置いているのだと、大悟した。




「異変を解決するなら、まず紫の所に行かないとならないって事か」

「そう簡単な話じゃないよ。何せ紫の事だ。困難な道のりを用意しているに違いないさ」

「全く面倒な事になったわね。――それで、萃香はどうするのよ。あんたも妖怪の一人じゃない」




 萃香はすぐに答えを呈さなかった。ただ遠くを見つめるように目を細めている。誰かを憂いているのかも知れない。霊夢は漠然とそんな感想を抱いた。




「……止めさせるさ。こんなの馬鹿げてる。宴会もろくに出来やしない」




 彼女は続ける。




「ただ、確かめておこうと思ってね。あんた達がこの戦いの中で生き残って行けるかどうか」

「面目ないなんて、そんな言葉じゃ軽過ぎるか」

「これから覚悟を固めてくれれば何も云う事はないよ。――過酷な戦いになるのは、必然だけど」

「やるしかないわ。指を咥えて見守っていても、幻想郷は終わるだけなのよ」

「それなら好い。あとは、解決するだけだ」




 三人は頷き合った。そうしてそれぞれの行動を、大まかに決めた。幻想郷は広い。絶望的な戦力差の中では、殊に狭い。であるなら、役割が必要である。問題の根源を断つ役と、危機を知らせに行く役と、か弱き者を守る役とを。




「私は駆けずり回って来るよ。――手の鳴る方へ、ってね」

「私は紫の所へ行くわ。寝惚けた面に一発お見舞いしてやるわよ」

「なら、私は人里に行くか。取り敢えずは慧音の所に行って、それからだ」




 戦いの序曲は、未だ響き始めたばかりである。


 


 


 


 


 




――続

 

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