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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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  • 05/18/16:58

11.26.23:45

幻想郷大戦#11

東方SS六十作目。
たまには激しく戦闘物。


不気味な笑み、暗い未来。



 先刻の喧騒は既に消え去った。二人のいる空は静けさに満ち満ちている。安全を見て取ったのか、この空域より逃げ出していた鳥達も、自由に飛び回る嬉しさを今一度噛み締めるように、楽しげに囀りながら空々たる蒼穹を飛び回っている。


 けれども、そんな自然の一場面に特別な感動を覚える事もなく、霊夢は自分より多少離れた位置で微笑んでいる幽香に猜疑の眼差しを向けながら、臨戦態勢を取っていた。手には札を持ち、針を持っている。一方幽香は警戒などまるでする様子を見せず、武器と思われる可愛らしい傘を翳したまま、霊夢の強い眼差しを飄々と躱していた。


「それにしても、そんな物だとはね」


 幽香は唇が象った笑みを崩す事なく、そんな事を云う。相手を威嚇するでもなく、単純に、ただ失望したという響きだけが明白である。しかし、幾ら自分を貶められようとも、霊夢には言訳の仕様がなかった。先の戦いで自分が苦戦していたのは、最早揺るぎようのない事実であったし、少なからず自分の中に慢心があったのも事実である。


 対して幽香は、本気を出す様子すら見せずに、自分を苦しめた蝶の嵐を消し去って見せた。既に消耗している霊夢と比べて見ても、その差は歴然とし過ぎているのである。


 霊夢は唇を噛み締めるより他になかった。苦渋を舐めさせられた自分が、単なる同情で自分を助けた相手に云うべき言葉など皆無である。そしてまた、此処で幽香と戦闘になったとして、勝てる気など毛頭なかった。


 幻想郷最強を自負する彼女に、妖怪の中では強者に入るとは云え、幽香と比べれば足元にも満たない存在に苦戦した自分が、この消耗した状態で彼女に勝とうと云うのは勇敢な勇者の行いではない。無謀なる愚者の、愚かな行いなのだ。


「――それで、あんたはどちらなの」


 恐ろしい妖怪の口元が殊更に歪む。彼女の答えは、既に霊夢の命運を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 彗星の如き速度で蒼天を切り裂いていた黒き点は、賑やかな人里の上空で漸く止まった。箒に跨った霧雨魔理沙は、被っている三角帽子のつばを指先で少し上げると、眼下に広がる光景を注意深く眺め遣る。そこには幻想郷の危機が間近に迫っているというのに、平生と変わらない生活を続ける人々が、思い思いの事をしながら過ごしていた。


「呑気なもんだな、随分と」


 魔理沙は舌打ちを一つその場に残し、ゆっくりと降下して行った。点でしかなかった人々の頭が段々と明確に映るようになり、魔理沙は人里を少し離れた、竹林の脇に建てられた家の前に着陸した。


 お世辞にも綺麗とは云えない外装は、前に魔理沙が訪れた時と同様である。あの時は人里へ買い出しに来たついでに茶を貰いに寄ったのだったか、と過去を少し振り返り、彼女は片手に箒を持ちながら、目の前の家の戸を二三度叩く。すると、少しの時間も経たない内に、家主が顔を出してきた。心なしか焦燥を感じているような顔である。


「霧雨の!」
「魔理沙で好いぜ。霧雨からは勘当された身だ」


 決まり悪そうに魔理沙は帽子を下げた。銀髪の長い髪の毛を振り乱して戸を開けた女性は、失言だったと思ったのか、あるいは事の性急な対策を講じなければならないと思っているのか、悪いと云って話を本題に行かせた。


「――で、魔理沙。大体の話は聞いている。早速だが人里を守る為にも力を貸して欲しい」
「聞いている? 誰からだ?」


 さて現状を知っているのが霊夢と萃香と自分以外に存在するのだろうか、と魔理沙は疑問に思った。が、慧音が「小さい萃香が来てな」という説明を受けて合点が行った。なるほどあの時の萃香の言動は各地に危機を知らせる為のものだった。とすれば、此処だけではなく他の場所でも協力が依頼されているに違いない。少しだけ安堵を感じて、魔理沙は胸を撫で下ろした。


「協力は勿論する。下手をすれば幻想郷自体が危なくなるからな」
「ああ、ありがとう。大いに助かる」
「しかし、妖怪が攻めてくるかも知れないとは云え、具体的な対策なんてあるのか?」


 魔理沙がそう尋ねると、人里を守る半獣――上白沢慧音は深刻そうな面持ちになって、俯いた。銀の髪が綺麗に靡いている。魔理沙はその様子を見て、具体的な対策など元より取りようがないと悟った。


 人間よりも遥かに強靭な種族である妖怪達が群れで掛かってきたとして、自分達に出来る事と云えば、里の人間をなるべく死なさないように戦い続ける事しか出来ないのだ。そうして、戦える要員が妖怪達よりも人間側の方が圧倒的に少ないのは明らかであった。


「避難――と云っても、この幻想郷に安全な場所など既に無いのだろうしな」


 はは、と乾いた笑みを零す慧音は沈鬱な表情をして、玄関先から見下ろせる人里に目を遣った。人々の賑わいがこちらに向かって棚引いている。これから何が起こるとも知れない現実が目の前に迫っているにも関わらず、元の通りの平和な時が来ると信じて疑わない里の人間達を守りたいという想いが、魔理沙にもしかと感じられた。


「……無駄に混乱させて、余計な犠牲者が増えるとも判らないしな」
「ああ。それで今まで、人里の者には何も云ってないんだ」
「四面楚歌って奴か。項羽のように自刎だなんて考えたくもないぜ」
「せめて何も知らせず、私達だけで攻めに来る妖怪の迎撃に当たれれば好いんだが」
「どうにも、難しいな。二人だけじゃ必ず人里に入られる」


 二人はそれなり黙りこくった。現状が好くないのは変えようもない事実である。歴然の戦力差の前に立ち向かっても敗戦は見えている。遠い目で人里を眺める慧音の瞳には微かな諦念の光が宿っていた。


「どちらにしろ、やるしかない。私と慧音とで人里を囲う結界を交互に維持、一人が人里に侵入を試みる妖怪を迎撃、それでどうだ? 今のところそれぐらいしか方法がないと思うが」
「……そうだな。私達は私達の出来る事だけに力を注ぐだけだ」
「お前と親しい不死人はどうしたんだ? あいつが居れば随分楽になるはずじゃないか」


 魔理沙はそう云いながら、かつて自分とも戦った事がある不死の人間を想起した。赤々と燃える炎を自在に操り、弾幕ごっことは云え驚異的な能力を発揮していた彼女が居れば戦況がかなり好くなるだろう事は、容易に予測出来る。疲労が限界を超えない限りは、永遠と闘い続ける事が出来る存在は、今の彼女らにとって救世主とも成り得るのだ。


「私もそう思って、竹林を歩き回ったりしたが、まるで消息が掴めなかった。もしかしたら……」
「人間と妖怪の線引きを変えたかも知れないって事か」
「……あまり考えたくはないが、そうなる。永遠亭の連中は元より、妹紅も今のところは私達にとって曖昧な存在だからな。もしも会ったとして、警戒をするに越した事はないだろう」


 二人はそうして幻想郷の空を見上げた。蒼茫たる空には未だ何の濁りも見て取れない。いずれあの空が、異形の妖怪達に埋め尽くされるのかも知れないと考えると、二人は同様に背筋の凍る思いになる。願わくばそんな事態が起こらなければ好いがと思ったが、それも慧音が聞いた萃香からの言葉を思い出すと、儚い希望にしか見えない。


 萃香は云った。憮然とした表情で、刻薄な現実を突き付けるように。


 ――低級な妖怪達は統率が無ければ、まず間違いなく人里へ来る。八雲紫という妖怪達からしても驚異的な存在が、人間の淘汰を呼び掛けたんだ、それも道理さ。覚悟はしなきゃならないよ。どんなに絶望的な状況に陥っても、決して諦めない覚悟を。でなければこの戦争には私達の敗北が待っている。

 

 

 

 

 

 

――続

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