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主に東方projectの二次創作について綴る事を趣旨とした、個人的ブログです。 記事のほとんどはSS関連になると思います。
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11.22.22:26

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  • 11/22/22:26

11.21.20:02

幻想の詩―紅魔の連―#2

東方SS五十六作目。
紅魔館の面々で連載物。


女の瞳に宿った物は。



 それは今は昔の物語。

 真偽を問うのは無粋と云うもの。

 真でも偽でも、どちらでも差支えはない。

 物語は人を楽しませる為にある。その内容の善し悪しに関わらず。

 だからこれは、幻想になってしまったのかも知れない物語。

 それとも本当にあった物語なのかも知れない。




 それを知るのは、語り手と、物語の中の登場人物のみである。


 


 


 



 


 




 ある小さな村に訪れた女が居た。とても田舎には似付かない、全体的に淡い紫を誇張する、何とも動きにくそうなひらひらとした服装である。見た目は美しい。実際村人の男達は、滅多にない来訪者を、しかも絶世の美人をこぞって目にしようと村中を歩き回った。その女にはある種の魔性があった。妖艶な美しさを以て、男を、女でさえも惑わせてしまうような、そんな恐ろしい物が。




 ――女は奇異の視線をそこら中から受けながら、涼しげな顔をして一つの民宿に入った。看板も掲げられていない、凡そ見た目だけでそこを民宿と判断する事は出来ないほどの宿である。女は一般の民家と何ら変わらないその宿に、まるで前から知っていたかのように、探し回る素振りさえ見せずに入って行った。驚いたのは宿の主人ばかりではない。村中の人間が、女の動向を訝しんだ。




 女は店に入ると、狼狽する店主の男に「何日間か泊まらせて貰うわ」と云って、その小さな村では決して目に掛かれないような金や銀の光を煌びやかに輝かせる宝石をどさりと目の前に置いた。村人達が驚いたのはそればかりではなかった。見るからに華奢な女の身体では、それほどまでの金銀財宝を持ち歩けるようには見えないのである。腕は小枝のように細く、長いドレスの中から時折覗く脚は少し蹴れば折れそうで、手持ちの鞄は小さな小さな物。果たして女はどうやってこんな辺境の地までその財宝を持ち込んだのか、それは誰も知り得ぬ事であった。




 それから、女は媚びへつらうような礼を何度も繰り返す男に部屋を案内され、その中で何事かをしたらしい後、すぐに部屋を出てきた。そうしてまた、媚びるような礼をする主人に向かって、こう尋ねた。




「あの丘の上にある館には誰が住んでいるのかしら」




 女の云う丘は、村の何処からでも見る事が出来る見た目豪奢で真赤な館の事だった。女の声音は好奇心を感じさせるものでも、また興味がある風にも見えない無機質な物である。店主には何故そんな事を尋ねるのかまるで判らなかったが、あの館には不吉な噂が飛び交っている。村の中では誰も近寄ろうとせず、また話題にも出さないほどである。だからか、店主は恐れ多いながらも、あの館には訪れない方が好いと伝えた。




「何故かしら」

「あそこには吸血鬼が住んでいると噂されているんです。そりゃもう恐ろしい生物が住んでいるらしく、近付く者も居はしません。この村はね、一か月に一度、狼男でも出てきそうな満月の夜に必ず人が一人居なくなるんです。そして、そんな夜の日にはあの館の方から、必ず人の悲鳴がするんだそうです。きっとあの館に潜む吸血鬼が血に飢えて、村まで手頃な人間を探しに降りて来るんだとみんな噂しております。ですからあそこには立ち寄らない方が好い。きっと貴方みたいな美人は、すぐに取って喰われてしまいます」




 主人は一通りの説明を終えると、ああ恐ろしいと云って震える方を押さえた。女は「へえ」とこれもまた無機質な声音で返事をした。主人からすればこの話を聞いて怖がらない人間など居るはずがないと思っていたが、寸毫も恐怖していない女を見ると、突然その女が恐ろしくなった。まさか魔女の一人じゃあるまいか――そんな事を思ったりした。

 女は主人の話を聞いてから、暫しの間一人物思いに耽っていたようだが、やがて宿の扉に手を掛けると、最後に主人の方へ振り返ってから「行ってみる事にするわ」と云い残して去った。主人は当然驚いて、すぐに止めようと宿を飛び出したが、そこに女の姿は既になく、寂寞の漂う質素な家並みが広がっているばかりであった。




 ――血のような赤色で塗り固められた薄気味悪い建物を前に、女は止まった。後ろを振り返ると小さな村が一望できる。そうして元の位置に顔を戻すと、大きく不気味な建物が視界を支配する。窓と云う窓は閉ざされ、窓掛けが掛かり、世の中を拒絶しているどころか太陽さえも拒絶しているかのように佇むその館は、なるほど吸血鬼が住んでいてもおかしくはなさそうである。女はそこで初めて口元を歪めた。憎き敵を見付けたが如く、禍々しい笑みを零していた。




 赤い館の入口らしき扉の前に立つと、がちゃりと錠の外れる音がした。そしてぎいという不快な音を立てて、仰々しく重厚な扉は開かれた。女はドレスが汚れるのも苦にせず、埃臭い館の中へと足を踏み入れた。まず見えたのは、奥まで長々と続く廊下であった。壁には所々が破壊されたかのように穴が空き、その欠片が廊下の上に落ちている。室内とは思えない汚さではあったが、女はそれを気にする事もなく、長い廊下を進んで行った。

 ――その途端、扉は大きな音を立てて閉まった。一瞬にして室内は暗闇に包まれ、一歩先さえも見えなくなった。黒い窓掛けは、一筋の日光でさえも通さない。しかし、それでも女は少しも狼狽えなかった。どんな時でさえ落ち着きを保てる機械のようである。女は手を前に出すと、何か詠唱のような事を始めた。すると彼女が出した手の平の上に、赤々と燃える焔が出現し、光など皆無であった廊下を照らし出した。宙に舞う埃や、損傷の激しい高価そうな置物やらが、ぼんやりと赤い焔に照らされている。不気味さは一層増し、何処から化け物が襲って来てもおかしくないくらいである。




 女はその中を、一人歩き始めた。

 道標となるのは小さな焔だけである。森閑とした廊下には、彼女の靴音だけがこつこつと響き渡っていた。


 


 


 


 


 


 


 


 




――続

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